チューしてあげる/島中 充
。ケイコは泣くはずはないんだ。泣くなんてありえない。ケイコが泣くのをいままで見た事がない。きっとだいじょうぶだ。ぼくはどうしようどうしようと考えながら手を握りしめていた。手の中がなんだかねばねばする。あのぐらいの平手で、もうしびれているはずはないのだ。握りしめていた手の平を開いた。
「あっー。」ぼくはあわてて座り込んだ。右の手のひらを地面の砂になすりつけた。ケイコの鼻汁がくもの巣みたいに手の中でベチャッとつぶれていた。
ケイコは掃除を途中で放り出したまま、ぼくのいる砂場を見向きもしなかった。さっさと先にひとりで家に帰ってしまった。ぼくはあやまる機会をうしなった。先生や、クラスのみんなになぐ
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