チューしてあげる/島中 充
 

「あほ、はよ、床、ふけ」
「なんや、赤れき岩!」
前のめりに背伸びしながらあごをしゃくってケイコは顔をつきだした。ちょうどよい具合にどついてくれと言う付き出し方になった。ぼくの平手が顔面にばちっとみまったった。チョークの手形が頬に白く着いた。
「ヒャー」
キャーではなかった。胸に声がつまってキがヒになった。キャーを通り越した悲鳴だった。ケイコはとっさに茶色がかった髪を振り乱した。棒ぞうきんを投げ捨てた。小学校の木椅子を背もたれと座面のヘリを両手でわしずかみにした。ぼくの頭上めがけて、ちいさく
「ウー」とうなって頭上へ高く振り上げた。ケイコはぼくより背が高かった。
「ヒェー、ヒが狂
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