チューしてあげる/島中 充
 
消しをシンバルのようにバンバンたたいていた。
「あほらし、もういやになった」
突然ケイコはぼくに向かって大きな声で文句を言った。床を拭いていた棒ぞうきんをひっくり返した。柄の先で床をコツコツと叩いた。仁王のように反り返っていた。
「掃除しやなあかんやないか」ぼくは優しく、いかにも出来の良くない生徒をさとすように言った。
「なに言うてんの。自分はなにもせえへんで、黒板消しばっかり叩いて、いつも命令するだけや」
ケイコは右肩を幾分そびやかした。ぼくは自分がずるく立ち回っていることはよく知っていた。やましい気持ちがあったところへ、にくらしいケイコの指摘が突き刺さった。かっと頭に血がのぼった。
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