チューしてあげる/島中 充
に盗み見しようとしないのは本当のおろかまで付く馬鹿ではないか、とぼくは思った。ぼくはそのように考えるニンゲンであった。
馬鹿正直のケイコだからこそ、大層ケイコは誰からも好かれていた。確かに勉強はできなかったが、白痴ではない、普通に話していて、むしろ人を面白がらせるほどの大変な賢さと知恵を持っていた。愚かにみえたが、素直だった。馬鹿にされた話しぶりをされても、馬鹿にされていると気づいても、平気でうんうんとうなずいていた。自分の失敗談や、お父さんとお母さんの夫婦喧嘩のありさままで、
「ほかでしゃべったらあかんと言われてんねんけど」と話した。
ケイコのことをみんなは、ちょっとそのように扱っていた
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