チューしてあげる/島中 充
 
ようとしなかった。
「ケイコは鼻がいつも詰まって、考えることが出来ない。頭が悪い」と、平気で言うのだ。
 朝のテストの時間。この金持ちのうすらとんかちを、どうしてぼくがめんどうを見なければいけないのか、と思いながら、ドリルのテストを後ろの席にまわしていた。谷底になっている教室に貼られている棒線グラフを横目にみて、丁度うまい具合に、ケイコはとなりに座っていた。そうだ、わざと腕をひいて答案を書き、その答案をケイコのへちま顔からよく見えるように右端にずらしておけばいい。そうすればケイコもぼくと同じように満点を取れるはずだと、ぼくは思った。しかしケイコは一向に盗み見しようとはしなかった。馬鹿のくせに盗
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