幽霊たち/岡部淳太郎
 
こに行ってしまったのか。もはや怒りという感情は、全宇宙から駆逐されてしまったのだろうか。そうした変化に、俺はいつの間にか遅れてしまったのではないだろうか。そう考えることは恐ろしい。だが、それも結局俺にとっては大した問題ではない。何しろ俺には首がなく、星辰のように、何千回何万回とこの森の中を巡り歩いてきた新しい歴史を、俺は持っているからだ。

いまは夜なのだろうか。低い月が、木々の向こうの漆黒の空に浮かび上がっている。何と素敵に陰惨な満月だろう。首の切り口の生々しい断面から、息と血が同時にもれるのを感じる。いまもこうして俺をさまよわせつづける執念がどこから来たのか、まるで知ることなく、俺は歩きつ
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