幽霊たち/岡部淳太郎
きつづけている。あの曲は何だろうか。あれは馬のいななきか、鬨の声か。俺は怒りに自らを燃やし、刀を持って人々を斬り捨て、戦闘の中で血をたぎらせてきた。あの、懐しい怒り。人々の怒り。俺の怒り。俺は、人生に退屈していたくない人間だった。あの曲。あの満月。俺の血。ふたつの丸いかがり火をいただいた、見たこともない高速の馬がやってきた。馬からひとつふたつの影が降りて、森のはずれの道端に立つのが見える。怒り。俺は怒りを思い出す。怒りは死んではいなかった。いまだに地上は、多くの怒りで満たされているのだ。俺はその、森のはずれに佇む、ぼんやりとした人影に向かって、歩き出す。腰から刀を抜いて、手の中に握りしめる。甲冑が重い。さまようのではなく、歩く。怒りが、ふつふつと、首の切断面からあふれ出す。俺は、俺の首を探している。}
連作「夜、幽霊がすべっていった……」
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