幽霊たち/岡部淳太郎
せているのは、どんな種類の感情でもない。あえてそれを定義するとすれば、一種の執念だと云えるだろうか。そう、俺には首がなく、俺は失くした首に、子供のように執着しているに過ぎないのだ。
いったいどれぐらいの日々を、この森の中の彷徨に費したのか、俺にはわからない。確かに俺は、あの頃人々が表していた怒りの味を憶えているが、あれほど鬼の形相で突き進んでいた人々は、いったいどこへ行ったのだろうか。ある者は馬に乗り、ある者は自らの脚で走り、それぞれに異る甲冑を身につけ、手に手に刀や弓矢を持って、平原や山中で砂塵を上げつづけていた人々。互いに敵対するそれらの人々。俺もその中のひとりだったはずの、彼等はどこに
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(3)