幽霊たち/岡部淳太郎
中をさまよいつづける。時が夜なのか、それとも昼なのか、それはこの鬱蒼とした森の中では、どこまでも不確かだ。首のない俺は、それでも物を見、音を聴き、すべての怒りの味を感じることが出来る。あの男は怒りに動かされていた。それは男自身にとってもあずかり知らぬ、起源の定かでない怒りではあったが、ともかく男は怒りにまかせて、俺に向かって刀を振り上げていた。その光景が、脳髄の中で停止したまま、いつまでも残っている。あの男の怒りは何だったのか。かくいう俺も、男のと同じ種類の怒りを、この身の内に感じていたはずだった。だが、その熱のような感情も、いまの俺からは遥かに遠い。いまの俺をつき動かし、この森の中をさまよわせて
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