スイセンのある部屋/伊藤 大樹
こぼれる時間は青い砂だ
と あなたが云う
青い谷に迷い込んだ蝶はわたし
不在しつづけるひとつの青い無名
立ち尽くしていた
凡庸な言葉の出かかるのを ぐっとこらえ
まるでひとつの禁忌
罰せられることのない罪を
あなたは自ら負ったのだ
触れられない
ひとたび触れてしまえば壊れてしまう
そんなあえかな刹那が
ふたりには許されていた
偏見のない澄んだ双つの目を
いつか 捨ててしまった
部屋の窓からの空の青さにも
沈黙してたたずんでいた
いいえ、噤むことさえ あなたは憚った
なににそんなにも急かされているの?
溶けたコインをポケットに忍ばせているあなた
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)