スイセンのある部屋/伊藤 大樹
 
こぼれる時間は青い砂だ
と あなたが云う
青い谷に迷い込んだ蝶はわたし
不在しつづけるひとつの青い無名

立ち尽くしていた
凡庸な言葉の出かかるのを ぐっとこらえ
まるでひとつの禁忌
罰せられることのない罪を
あなたは自ら負ったのだ

触れられない
ひとたび触れてしまえば壊れてしまう
そんなあえかな刹那が
ふたりには許されていた

偏見のない澄んだ双つの目を
いつか 捨ててしまった
部屋の窓からの空の青さにも
沈黙してたたずんでいた
いいえ、噤むことさえ あなたは憚った
なににそんなにも急かされているの?
溶けたコインをポケットに忍ばせているあなた

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