私小説/がらんどう
 
ではまだ誰も殺されてはいなかった。この小説は二年以上前から俺の部屋にあるのに俺はまだ読み終えていなかった。何度も読もうと手をつけてはみるのだが、いつも途中で読んでいたこと自体を忘れてしまうのだった。当然それはこの小説に限ったことではない。だが、読み始めたことさえない小説は、当然ながら途中で中断された小説以上に存在しているわけで、最初の一ページに刻まれた一歩は小さな一歩ながら偉大な一歩であるのだ。すまない、これも多分誰かの引用だ。

俺はアストロノーツのような足取りで窓まで近づきブラインドを上げる。外には小雪がちらついていた。当然窓の内側には雪は降っていなかった。部屋の中に雪が積もったならばそれ
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