私小説/がらんどう
くマーガリンの塗られたトーストを流し込む。当然胃の中にだ。シンクにじゃない。卵、コーヒー、トースト、どれもこれも美味いものではないが三つ揃えることでそれぞれが互いの存在を誤魔化しあい、俺は何とか我慢することができる。どれが欠けたとしても俺は餌から顔を背けてしまう。三つ揃っていることが重要なのだ。互いに誤魔化しあいながら世界は回転していくのだ。
ベッドの横には寝る前に読んでいた文庫本が落ちていた。当然眠りながら本を読むのは不可能だった。ネロ・ウルフという探偵の出てくる美食小説らしかった。「らしい」というのは、まだ読み終えていないからだ。たぶん殺人事件が扱われているはずなのに、俺の読んだ限りでは
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