私小説/がらんどう
 
調味料は必要なかった。とはいえトーストにはマーガリンが必要だ。(バター? ああ、そういうものもあるな。)なにも塗られていないトーストを食べるためには、それなりの金をパン山に費やす必要がある。この世界には美味いパンと不味いパンの二種類が存在する。そしてその二種類を分かつのは費やされる金の多寡である。とりあえずそのルールを俺は知っている。(だがオースターの小説ほどには、俺は自らにストイックなルールを課してはいない。まだ俺にはそれだけの余裕が残されているということだ。)ともかく俺は卵の力を借りて味も香りも薄いものののとりあえず冷めてはいないインスタントコーヒーを飲み干し、今度はコーヒーの力を借りて薄くマ
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