夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 


幽霊が

{引用=今晩は。
どこかであなたと
お会いしませんでしたか。
君の前に現れて
いきなりそう告げるのは
誰あろう ひとりの
ひとつの
幽霊である

君は気づかない
それは
首を失くした男
または 脚の消えた女
あるいは 臍を取られた胎児
(なのだが)

もしくは彼女は
死してなお
実体化した宇宙の塵である
(のだが)

隕石への道を見出せず
岩石の思いにとどまったままの
未練をどこまでも引き延ばしたような
抒情詩
その余韻

もしくは彼女は
ひとり君のみに向けて つぶやく
寒いのです。
どうか私に
熱をください。
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