夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 

そう云われて初めて
君は気づく
君の
動かぬ脚
そして 月の悲鳴

夜は凪
道は細い 裏通りで
あらゆる人工の灯りは
周到にこの場所を避けている
時もところも
どちらも閉ざされた迷宮の中だ
君は蒼ざめ

もしくは彼女は
なおも云いつのる
熱を、
熱をください。

気がつくと 長い旅のような
逃走
君は懸命に走りつづけていた

もしくは彼女は
求めていた熱を君から奪ったのだろうか
走りながらも君は
震える寒さとともにある
君の平熱は
三十六度五分
(なのだが)
それがいまは確実に下っているように思える
(のだが)
背後はもちろ
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