術後/草野大悟2
 
浴びる。妻の沙織が準備した厚切りのバタートースト二枚、ハムエッグ、野菜ジュース、コーヒーをゆっくりと済ませ、家を出る。
 棘のような大気が肌を刺す。
 ちょうど三十分で大学病院に着いた。
 職員駐車場の指定場所にモスグリーンのボルボを止め、第一病棟までゆっくりと歩く。
 人影はまばらである。
 大学病院敷地内にある小さな公園で、雀が数羽、チュンチュンと騒がしく、橙色や朱色をした桜の落葉を跳ね分けて餌を探している。
 エレベーターで六階の脳神経外科医局まで上がり、医局入口のドアを開ける。
 凍えた空気だけがあった。
 平成十七年十二月八日。今日、村中英一が執刀する患者は、佐藤陽子とい
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