白熱 サイドA/佐々宝砂
 
が 俺はあのひとの真の名をほとんど崇拝していたので どうしても名を呼ぶことができなかった 俺があのひとの足もとにひれ伏して祈ったときにも 名を呼ぶことは思いもよらず 俺はただ震えながら存在しないその

その 何だったか まあいい とにかく俺は憐れみを乞うた あのひとの存在しない舌が存在しない言葉をかたちづくった 「女よ」 いやそのあの 確かに俺は女ですがね いきなりその物言いはないんじゃないでしょうか と俺は内心思ったが とにかく相手は長いあいだ俺が夢みてきたほとんど恋人のような否恋人よりもはるかに重要な存在/非在/不在であったから 俺は反抗しなかった 俺はひれ伏したままあのひとに祈った 俺
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