酩酊の夜/竹森
 
唇を用いて沈黙から旋律へと移し変えていく。唾液で溶かせるのはキャンディーだけではないから、呼吸する事が、歌うという事。溶け合いひとつの薄明かりになってしまう前の、奏でられてしまう前の、星月から欠けたばかりの黄色い音符の羅列にも、じっと目を凝らせば、今なら触れられる様な気さえする。夜の黒ずんだ川を懐中電灯で照らせば驚くほど透き通っている様に、この夜空の体積がどこまでも広がっていく様な。そんな気が。

視線を視界の端にぶつける度に鳴り響く鐘の音が、月に波紋を起こして、意識の転落はとどまる事を知らない。歯裏と吐息の衝突が次第に弱々しくなっていくのに合わせて、鐘の音の反響が、僕と夜空とを遮る海面が、遠
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