酩酊の夜/竹森
い様な気がする。きっと、月の断頭台に繋がる透明な段差があり、それを昇っていく音だろう。
行く先々に聳え立つアパートのポストからはみ出ているチラシの一枚一枚が、卑しい舌にしか見えなかった事は、もういい。いつの間にか手ぶら。
コンビニで立ち読みしていた漫画雑誌が纏うインクの匂い。店員に背を向けて、麻薬中毒者の後ろめたさで粗い紙面に鼻を押し当てていた。離すと脂が点々と紙面に吸われていて。漫画の内容は覚えていない。
夜行バスの窓から漏れる暖色のぼやけた微光が、夜と朝との境界線としてこの街を通り過ぎていくまで、まだ時間はある。
夜を足止める為に、二足のスニーカーを歩道の中央に放置しておこうか
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)