元日の夜に/草野大悟2
ような顔をしている。やはり、この人は、マリア様だ。私は、そう確信した。
「お宅では毎年元日はこうなんですか?」
突然、田中が箸を止めて訊ねた。酒が弱いのか頬のあたりが赤くなっている。
私が答えるより先に、そうですよ、と女三人が口を揃えた。そうなんですねぇ、良いご家庭ですねぇ、羨ましい。田中が真から羨ましそうに言った。
「私たちにもですね、一応、家庭がある訳ですよ。それなのに、こうして元日から仕事なんです。家族からは文句は言われるし、正月気分は台無しだし……まったくやってらんない」
それまで、田中の指示にただ従うだけだった二人のうち、体も髪の毛も薄い小さな男がため息交じりに言った。
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