不可能な交換/オダ カズヒコ
私はツナギの防護服のジッパーを首元まで引き上げ、素早くマスクをした。「見てくれや。世界中の留置所はあんたの御蔭でみんなこの中さ」ネズミは大袈裟に首をすくめ、両手を広げてみせた。自衛隊の男が銃をこちらへ向けた。ネズミは皮肉な口元で「鉛の弾もここらじゃ今や信頼の証ってわけさ」と言った。
銃声が一発鳴ると弾丸はネズミの眼球を貫通し、タバコの自販機に当たって跳ね返った。ネズミが血を流すと自衛隊の男は舌打ちしながら向こうへ行った。
私はぐったりとした麦わら帽のネズミを抱え上げると、車の後部座席に彼を押し込んだ。ゴムマットの上にホーチミンの銅像の一部とセーヌ川が勢いよく滴り落ちた。私はそこ
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