忘れ物/オダ カズヒコ
 
の女が俺にとって救いだったことがある
心を分かち合える
唯一の人間が
彼女だ

そう思ったことがある
嘘ではない
事実だ

しかし俺はいま知っている
事実の不確かさを

不確かなものにすがる
愚かな人間たちを

ニンゲン
このさみしい生き物たちを眺めていた
ときに駅のプラットホームで
コートや帽子や手袋やスカートなどを身にまとい
まるで文明の終着駅に向かって揺れる
硬直した肩と
険しい表情

どこかで終わろうとする世界に向かって
走り続ける電車に
ただ黙って
腰を掛けるニンゲンたち

電車を止めてくれ!

あなたの本当の肉体を差し上げまし
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