陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 

「まあな」
「あたしね、太郎、明日、太郎に言うことがあるんだ」
「何で明日よ、今言えばいいじゃん」
「だーめ、明日だよ、ア・シ・タ」
「ふん、もったいぶって、どうせあの店のケーキがおいしいとか、クレーのあの絵がどうたらこうたらとか、テコンドーの真髄とかそこいら辺の話だろ」
「ふっふっふっ、かもね」
 それにしても今日はまさに登山日和、快晴、突き抜けるような青空、吹き渡る心地よく・・・ない硫黄臭の風・・・
 「五○分登って一○分休み」を繰り返し、高岳頂上に午後四時に到着。頂上からは阿蘇五岳が一望できる。太郎にとっての高岳山行は、南アルプス縦走のクールダウンであり、陽子にとっては、初め
[次のページ]
戻る   Point(1)