空洞/飯沼ふるい
そのなかで
あなたの影は
蝸牛のようだった
この狭苦しい部屋の向こうで
空は
愚鈍に延び広がる
冷たい尿が
薄い屋根板を流れる
軒下の砂利を洗う
いずれにしても
あなたということは
蜘蛛の巣のように疎ましい憎悪
であったり
脂汗のようにべたつく性欲
であったり
夕焼けのように痛ましい思慕
であったり
凪のように静かな不安
だったり
つまり
なにひとつわかっていない
だからこそ
あなたということにすがってみる
艶のない髪を撫でる
衰えた聖、その感触
あなた、わたくし、という
なにがしかの境界が裂けていく
意識、あなたの、未遂の
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)