小屋/草野大悟2
 
、泥だらけのスニーカーを履いている。白髪混じりの無精ひげが伸びた顔には、生気がまったく感じられない。
 この男が初めてステージに現れたとき、僕は思わず照明室のマイクを掴み、やめて下さい!、そう叫びそうになった。でも、女は平然とステージを続けているし、客も、何事も
なかったかのようにストリップに見入っている──。

 僕は、川崎市の多摩区で生まれた。
 父と母は「中村屋」という、客が十四、五人も入ればいっぱいになるような食堂を営んでいた。
 小学校は、駅の近くにある百合ヶ丘小学校に、中学校は、その近くの百合ヶ丘中学校に通った。
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