扉/草野大悟2
「うーん、そうだけど、そうだけど」
「だけど、なんなの」
「そうだけど、人という他人の目」
「あーあ、他人ね。他人の目ね」
「そう、他人の目」
他人の目には棘が潜んでいる。それが刺さる。刺さった棘が、体中を廻っているうちに、赤色を産むこともある。涙さえ流せぬうちに。
恋人を抱えて空を飛んでいたあの絵描きは、今も相変わらず下手くそのままか? 下手を極め続けているのか? そいつはとっくの昔に消滅している。消滅に無関心でいられることは、ある意味幸せであり、ある意味不幸だ。 私たちは、そいつと同じくらい、おそらく人並みに不幸だ。何が? 不幸色という色を知っている。無限に変化する淫雨だ。
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