扉/草野大悟2
 
をずっと見つめていた。ただ、見つめ続けていた。
「困るよね。なんにもないなんて」
「そう、困るね」
「ものっすごく困るよね」
「うん、ものっすごく困る」
「ねえ」
「ん?」
「緑のヤツ、もう起きだしたかな?」
「う〜ん、どうだろう。赤は起きてるかも」
 色に就寝時間があり、起床時間があることを二人が知ったのは、つい最近のことだ。森という名の世界にいるオゾンが教えてくれた。
 色は音に似ている。そう誰かが言っていた。
誰だったか思い出せない。私だったのかもしれない。音は色だ。色は音だ。ノワールとブランみたいに。
 朝や昼や夜が、それぞれの名で呼ばれる瞬間、夢という幻が実像とな
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