扉/草野大悟2
 
見つめながらハミングをした。赤紫と空色と黄も続いてハミングした。それは、カノンだった。
 重層的に奏でられるメロディが茜色の風に乗って世界中に流れた。
 外の生き物たちが動きを止めた。人間も車の運転を辞め、耳を傾けた。静寂の中にカノンは流れつづけた。扉が近いことが予想された。
 扉は、有機体を遮断することはできる。しかし、音楽や言葉や色や光や風を遮ることはできない。扉が、どうあがいても、それは不可能だ。歯ぎしりが聞こえた。扉が軋んでいる。歩き続けた。もうすぐ終わる。もうすぐ私たちは。
 夢や希望なんか叶うわけはない。断言したものに見せつけてやりたい。みんなの生き生きとした顔。色。見せつけて
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