扉/草野大悟2
笑いを浮かべている。
私たちのまわりの多くの影が、このようにして実態を失っていった。裸で抱き合う相手は、風しかいない、と私たちのまわりの多くの影は知っているのに、だ。
それは、たぶん、夢という劇薬のせいだろう。多くの場合、夢は叶わない。努力という観念も成就することはないし、流された涙や汗が実を結ぶこともない。
生きてゆくということはそういうことだ。
叶わない、結ばないことを前提として歩むことだ。
人生に絶望しました。そう言って、あるいは言わなくても自死する人がいる。幸せだ、と思う。
「自殺する人が幸せ? なんでそう思うの?」「なんでだろうね」
「ね、行こうよ」
「どこに?」
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