扉/草野大悟2
 
何よ、そのひゅるるん、って?」
「ひゅるるんは、ひゅるるんよ。見たことないの?」
「ない!」
「そう。ないんだぁ」
「僕たちには見えないし、聞こえないんだ。きっと」
「そうかもね」
「雷雲の涙だったら知ってる」
「私も、知ってるよ。派手だよね。ずいぶん」
「派手過ぎるほど派手だし、うるさいよね」
「うん。静かに涙しろって感じ」
「そうそう、静かに! って」
 さめざめと淫雨は。降る。雨の中を歩く赤や青や緑は、もう十分に発情している。ふたりだってそうだ。雨は、色たちを欲情させる。 あの日だってそうだ。雨が降っていた。色たちと二人は、墓地裏の桜の老木の下にいた。
 傘なんか役に
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