ありうべからざる色彩/佐々宝砂
土曜の午後
僕はまたTの玄関をノックした
返事がなかった
チャイムを鳴らしたが同じで
おかしいなと思いながらノブをまわすと
するりと開いた
三和土はぎらぎら光る油膜のようなものに覆われ
赤緑に染まった靴が散乱する中央に
わけのわからない塊があった
赤 ピンク 白 薄い紺 灰がかった緑
いろんな色した内臓の上に
下半分つぶれたTの顔がのっかって
見開いた目がぎょろりとこちらを向いている
肉塊の下には
スニーカーを履いた両足が残っていて
肉塊の両脇からは
黒いシャツを着た両腕が突き出ていて
その姿は
恐ろしく寸詰まりの胴と
不釣り合いに長い腕と
ば
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