ありうべからざる色彩/佐々宝砂
その遺書の中身は全然読めなかった
白い便箋にべっとりとしみついた
赤にも緑にもみえる
油膜のような
その色彩。
父親を亡くしたTは酪農をやめるつもりで
乳牛を売り払おうとした
しかし一頭もまともな値で売れなかった
牛たちはみな痩せ細り
やっとのことで絞り出す乳には
いつも必ず一筋の血が混じっていたのだ
その血はもしかしたら
緑にもみえたかもしれない
――いっそ土地を売ってしまったらどうだい。
――そんなことしたら親父が化けて出るさ。
Tはそれでも少しだけ笑った
痩せた頬は青ざめて
光か何かの加減か
ときおり緑のようにもみえるのだった
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