祖母の瞳は日に日に還る/亜樹
 
なたのこと知っているのだけれど、ちゃんと覚えているのだけれど、どうしても名前が思い出せないの、のポーズであることを私は正しく知っていたので、きちんといつも自己紹介をする。
 数年前、隣の空き地にマンションが建ち、この古い家は前にもましてぐっと日当たりが悪くなった。日照権を争った裁判は早々に負け、祖父はその日のうちに庭にあった大きなざくろの木を切り倒してしまった。
 けれどもその祖父ももういない。外の寒さなどかけらも知らない暖かな部屋の中で、私は口をつぐんで祖母の瞳をじっと見つめる。左目は私が生まれて間もないころに白内障にかかり、もうまったく見えていない。その青白い濁った色が、私の知る祖母の色だ
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