北の亡者/Again 2014睦月/たま
 
うにこの避難小屋の落とし戸から半身を出して、朝日を受けて耀く槍ヶ岳の山頂を見ている。それは神々しいほどの氷のドームだった。夢にも見ることのできないこの槍の穂の光景を目にして、私は満面の笑みを浮かべていた。
 山頂への登攀ルートは所々に垂直の鉄梯子があるが、凍りついた岩のドームをよじ登ることになる。まず、私がトップで山頂を踏むと、新人二名をザイルで吊り上げる。残りのメンバーは中堅とベテランだからザイルはいらなかった。狭い山頂には小さな祠が祭られていた。標高三一八〇メートル。遥かかなたに日本海が見えたはずだが、今はもう記憶のかけらすらない。

 二年後の冬。その年、私は体調を崩して正月山行には参
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