秋/月形半分子
 
漆塗りの背景を持たない私達の理由は
空に抜けていくばかりで見ることが出来ない
降りそうで降らない雨の一歩先を歩くのは花屋の老婆
秋桜畑へと行くのだという
そうそう、私の懐に友人に出し損ねた一通の手紙がしまったきりだった
「前略、雨の降る頃に会いに参ります
噂によるとそれは、川辺で柳が優しく壊れはじめる頃のことだというのですが
 あなたはどう思われますか 草草」
友人とは会にいくものだろうか
それとも会えるものだろうか
私は今日も柳のならぶ川辺へと行く

土蔵の二階に、私を入れた牢獄が埃にまみれて転がっている
自らを牢獄に閉じ込めることほど簡単なことはない
世の中が変わっ
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