あの日覗き込んだ照準器の十字架Destiny/北街かな
私に毎日のように幸せな恋人関係の進捗状況を聞かされ続けてきたのです。なかなか口にするのはつらいことですが、正直、ひどくねたましく思ったものです。私の右半身を救出してくれた男は、再生に中途半端に失敗したあげく私をみかんゼリーに沈めてつぶつぶにしようとしたのです。酷い男でした。甘酸っぱいどころじゃない、それは残酷極まりない強力な酸味だったのです。私は彼の元を逃げ出して、でもやっぱり引き返して、彼の頭を掴んでみかんゼリーに満たされたバスタブの中に何度も口を突っ込ませました。彼は『染みる』と言って、みかんの中に溶けていきました。橙色の幸福な光あふれる、みかん次元へと旅立ったのです。そうして私は決意しました
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