エロ本曼荼羅/鯉
が言うと、見つからない、と背中越しに彼女が返した。その間にも何台かの自転車がぐるぐるとおれと彼女を追い越していく(いつも拾いに行くときは同じ人数だった。雨ガッパを来て、誰かに見つからないように遠回りをしていく。列の順番も決まっていた。おれは三番目、いちばん最後だった)。気づかれないように、コートの襟を立てながらその中のひとりをおれは呼び止めた。「嵐がひどいみたいですね」鍔の下の暗闇から肌色が少し出てくる。「とてもひどいようです」熟柿のにおいがした(トリスの瓶を鞄に詰め込んで、篭に入れて速度を上げると、ガタガタ揺れてこぼれそうな瓶の音と、顔に当たる雨粒がおれの顔もぼやけさせていくようだった)。すぐに
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