春を返して/まーつん
 

 眠る大地を揺さぶった

 だが
 その季節は 今や伝説
 歴史の彼方に 取り残され
 永い冬だけが 居座った

 凍り付いたのは
 季節だけでなく
 人々の心も、また…

 咲き乱れる思想
 謳歌する自由は

 軍靴の足音と
 監視の目に葬られて
 いつしか過去のものとなり

 そして
 繁栄の街は遺跡となって
 厚い氷の下に眠り 今や
 雪の静寂のあちこちで
 僅かな命の残り滓が
 細々と 息づいていた 

 今 一人の女が
 雪原に跪く

 その口元にこびり付くのは
 食んだばかりの獲物の鮮血

 痩せた体で這いつくばり

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