春を返して/まーつん
 

 狂ったように雪を掻き分け
 氷の岩盤を暴き出す

 荒い息を吐く女の眼は
 透き通る厚い氷層の
 遥か下に眠る 昔日の都市に
 錐で穴を穿つような 眼差しを向けた

 そうして
 爪が剥がれ
 血の滴る両の拳を
 足元の氷に叩き付け
 博物館の標本のように眠る
 二十一世紀の都市に向かって
 こう 叫びかけるのだった


 春を返して、
 あたしに
 春を返してよ、と


 自由な生を、緑の大地を
 清浄な水を、澄んだ空気を

 箱詰めにして
 素敵なリボンで縛って
 ここに届けてよ、と

 だが その声は
 切れ味鋭い 静寂に
 駆けつけた 北風に

 たちまち 微塵に
 切り刻まれて…

 どこか遠くから
 吠えたてる
 猟犬の群れの声が
 
 高く 低く
 響いてくるのだった

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