一方井亜稀詩集『疾走光』について/葉leaf
までの因果の流れや時間の流れを破るように突如出現するのであり、そこでは導入―展開―結末のような物語構造はとられていない。だが、そのような物語の枠組みから外れた詩行の展開こそ、一方井の詩作当時の感慨をよく表しているのである。つまり、心象が連続せず様々な想念が不意に湧いてくるという心理状態である。そして、後の連では、「中折れ帽をかぶった人」の通行についての瞬間的な錯覚を語っているわけであり、それは言語以前、さらには知覚以前のあいまいな領域へと読者を誘っていく。歴史とはそもそも、微細な事象が不均衡なまま運動し合い発光し合う存在のカオスに根差しているわけであり、その根源においては表象の困難なものである。一
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