霧の町の断片/飯沼ふるい
潮風と魚の腐ったような匂いは
鼻を突く濃さを保ったまま運ばれてくる
伸びるに任せっきりの生け垣の向こうでは
年端もいかない男女が、肌に染みつくような腐臭と霧とに混じって
身体を重ね合わせている
夜にはまだ遠いはずの時間
少年の真剣な眼差しが
この町の唯一の灯火のように
ちろちろと燃えている
喉仏もまだ柔らかい少年は上擦った声で呻く
身体の内も外も無くなって
静かなこの町が彼の中に収斂されていく
足元に落ちていた青魚の鱗と
濁った精液が渇いていく様とを眺める彼の目からは
既に灯りが消えていて
少女は口を結んで涙を流し続ける
星のない夜であるはずの時間
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