霧の町の断片/飯沼ふるい
間
二人は灯りのない小道を歩く
※
この町唯一の駅の待合室には蜘蛛が住み着き、
単線路のホームに旅客列車も貨物列車も訪ねてくる気配は無い
疲弊した無宿の人がやってきて
埃の絡んだ蜘蛛の巣を揺らすまで
ここは無人のままにある
駅前の交差点の信号機はいつも点滅している
すれ違う人々は造花の花束を抱え
急ぎ足でそれぞれの行くべき場所を探す
革靴で歩く足音がくすんだコンクリートに反響して
霧を包んだレジ袋が消火栓にぶつかる
そこかしこにため息が隠されているこの界隈で
そこはかとなく漂うのは
精液の匂いか、港の匂いか
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みんなが寝静まる頃
思い出したかのようにタンカーの汽笛が鳴る
霧の声のように響く、音にもならないようなその震えを感じながら
湿ったベッドの中で少年は
あの時の自分の片割れのように涙を流す
※
霧が深みを増して夜を蹂躙する
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