↓( )/ディレッタント
 

 溝の淵で伸びている雑草に朝露が落ちている。近寄ると溝の中から三毛猫が見上げていた。猫は大きく、
「ワン」
 黒ずんだオレンジ色の靴が雑草を潰していた。小春日和がさんさんと照る。

「あなたは上弦なのですか、下弦なのですか」
「なんですかそれは」
 ただそこにあるばかりの月、本当のところ一度も見たことがない。
「すみません」
「あやまられても」

 帰宅するとカーテンの上部にかまきりが張り付いていた。茶色い澱みを背負い、やがてくる今を待っている。背をつかむ。窓を開けた。穿かれた冬が舞い込んできた。かまきりと目が合った。頷く。羽ばたきながら地面に叩きつけられ、そのまま動かなく
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