前の家のばあさん/オイタル
 
前の家のばあさんが死んでしまった
腰より低く背を曲げた八十いくつのばあさんだ
息子夫婦は遠くに住んで
干からびたみたいな平屋に一人で住んでいたが
隣近所に迷惑のかからないように
死んだら近親者だけで葬式を出してくれというのが
遺言だったそうだ

もう何日もお天気が続いて
少しはお湿りも欲しいと誰もが思っていた頃だった
結局ばあさんの死んだ日にも雨は降らず
残された六十の息子が手土産を持ってやってきた次の日
久しぶりに少しだけ雨が降った
でもそれだけだった

いつもお世話様で というのが
ばあさんの口癖だった
手押し車の前かごに買い物袋を入れて
褪せたような夕焼け
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