前の家のばあさん/オイタル
焼けを頬に映して 暮れ方
ときおりうちにもお土産なんかを届けてくれた
お世話なんてちっともしなかった
何十年も隣に住んで
水臭い とは 家人の言葉だったが
ぼくは素直にはうなずけなかった
水道の蛇口がバカになって
ドアの陰で止まらない水音がしていた
死ぬ前に ばあさんは
近くの葬儀場からパンフレットを取り寄せて
こんなふうに こんなふうにしてもらってと
家族に託けていたそうだ
広い駐車場に風が吹いている
ぼくはもう二度とばあさんを見ることはないのだ
ばあさんを見ないままぼくはあと何十年かを生きるのだ
やがてぼくは腰より低く背を曲げて
干からびたみたいな家
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