言いたかったことはぜんぶ、/飯沼ふるい
 
駆けぬけていった少年は
潮の灼けた匂いを残した

かなしい匂いだ
陽炎にゆられる
焦れったい、夢精の残り香

海を見に行くきっかけなら
それで十分だった
そこで心中したり
煙草をくゆらしたり
そのくらいの自由が
欲しいと思えた

4tトラックが待っている
信号を右に曲がれば
狭い路地、長い下り坂
床屋を示す三色の渦巻きを過ぎれば
潮風の匂いは濃くなって
海が見えてくる
良く晴れている
沖合で産まれたての
入道雲はくっきりと白い
足元には、猫の死骸

素知らぬまま海へと誘った彼を
入道雲に見ようとしたけど
雲は雲で変わりようない
彼に言いそびれ
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