野火/飯沼ふるい
 
 それに伴う引き潮のような情緒とを
 少ない記憶から呼び起こし

 消えていくものごと
 そのものになろうとしている自分の為に
 彼は
 裏返ろうとしたかも知れない

彼の身体もまた
火の中へ潜ろうとしたその間際
彼が見たのは
火の明かりを吸い
蛍火のような光を帯びて乱れる雪の群像
淡い輝きの一つ一つに映り込んだ
やがて朽ちていく暗い地平
その背後に
ただあるだけの暗い夜

 暗い夜
 彼は

 消えていくものごと
 在り続けるものごと

 その差にあるものを
 彼は
 見つけられただろうか

軒先の小さく丸い氷柱が割れる
凛としたその音は
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