野火/
飯沼ふるい
音は
火に包まれていく彼の感じた
最後の優しさだった
納屋は燃え続け
燃える為の納屋になる
ありったけの怒濤は
誰に聞かれることもなく
それは確かに無音とも言う
彼の身体をどこかに滅して
夜の深い秒針に紛れていく
そうして雪の積もった朝がくる
ほの朱い日差しが
澄み切った雪原を照らして描くのは
少年の鎖骨のような
微妙な陰影
この緩やかな傾斜と砕かれた写実の下で
焼け跡すら残さずに消えたものは
なんであったか
今となっては分からない
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