野火/飯沼ふるい
の松から
黒ずんだ野火が溶け出して
農場の荒れた地の上を
静かに嘗めていく
彼は削いだ肉と足跡を玩具箱へ収め
蓋を閉じる
蓋も容器も
柔らかく湾曲して
もとの形を拒んでいるから
完全には
閉じることが出来ない
火は納屋へも注がれる
土壁が燃え落ちる
鋤や鍬や唐棹が穏やかに倒される
玩具箱も血脈のうねりの中に消えていった
その緩やかな侵食を眺めていた
眺めていた
彼は
新しい朝を思ったかも知れない
幾度も訪れた町の街灯を思ったかも知れない
そこですれ違った老人の皺垂れた手頸を思ったかも知れない
消えていくものごとと
そ
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