チョーク/10月/イシダユーリ
 
年代だ
もういないものばかりが
瞼の裏で
ちりちりと踊る
女優と妹が
兄さんと歌手が
まっくろい
柱になって
丘の上に
みえる
わたしは
からだを左右に揺らして
彼らをうごかす
視野の端で


そこはいつも夏だ
ひかりは降るものじゃない
と君は言った
君はそこでいつもアイスキャンディーを
食べている
西日だけがあたる
水色
桃色
看板にかかれた
海水浴場への
矢印
涸れている海へ
やってこない夜へ
滑りこもうとする
薄緑

君の舌は美しく腫れる





いまや君は私の小指の先ほどの大きさになっているやさしく押しつぶして
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